事業経営のフレームワーク

● 標準は事業経営のフレームワークです

 

事業経営のモデルについて、PMIでは上下5層、左右2分割のモデルで表しています。

詳細は、PFM標準を参照してください。

 

本サイトでは、さらに一般化した4層モデルで表します。

ビジョン・ミッションを頂点に、戦略と目標、事業計画とマネジメント、ポートフォリオ計画とマネジメント、定常業務、プログラム・プロジェクトマネジメント、の各層からなる三角形です。この三角形に、計画し実行する、というサイクル軸、また、指針を決め経営計画を決めるという経営リーダーシップと計画を実行する経営マネジメント、からなる責任軸の、二軸が読み取れます。

 

-時間軸(経営サイクル)

実際の経営活動は、長期・中期・年度の経営計画作成が実行の起点になります。各計画ごとにPDCAが行われ補整が掛かる仕組みです。

 

-責任軸(組織と職責)

計画を統合し承認する仕組み(何をやるか)、実行し結果を出す仕組み(正しく行う)、に分かれます。実際の組織では、この仕組みがプロセスと職責として実装されています。

● 経営のリーダーシップとマネジメントの違いとは

 

Management is doing things right, Ledership is doing the right things.

 

ドラッカーさんの言葉です。

経営の計画を行う各層は、経営のリーダーシップ部分、つまり、WhatとHowの明確化です。なりたい姿とそこへの道筋を方針として示します。その実行をコントロールする層がマネジメント部分、Doing Right、正しく行うことです。

 

-経営のリーダーシップタスク

あるべき姿がビジョン・ミッション、そこへ到達する道筋・行動計画が戦略、目標とする売上・利益が事業計画でしょう。企業には、長期・中期・年度の各事業計画があります。この指針、計画策定と決定、資金配分を行うことがリーダーシップタスクです。

 

-経営のマネジメントタスク

決定された行動計画の実行を正しく行うための仕組みです。ここで正しい、とは何か。ガバナンスが効いている状態で行われていることです。では何故ガバナンスが必要か、各行動単位での責任・権限の明確化と、変化への対応のためです。企業活動では絶えず起こる環境変化への対応が必須だからです。

 

● プログラム・プロジェクトと定常業務=新たな価値の創造と、新たな価値による利益の創出

 

価値の創造は、主に開発系の組織が中心になり成果物を創り出す活動です。創られた新たな価値を売上・利益に換える活動が定常業務です。主に製造・営業・業務系の組織の活動です。

 

● 潜在するキャズム

 

潜在するキャズムを図に示しました(矢印C)。各層の境界と層内での創造系タスクと創出系タスクの境界です。以降の章で、セオリーと現実の摺り合わせを行いながら知恵の蓄積を試みます。

● 事業リーダーのスタイルと事業執行の仕組み

 

事業リーダーのスタイルはその事業を執行する仕組みを考える上で重要な要素と考えます。

分類としては以下の2つのスタイルに分かれるでしょう;

リーダーがリーダーシップスタイルの場合

リーダーがマネジメントスタイルの場合

 

1.リーダーがリーダーシップスタイルの場合

つまり、明確なビジョンとその実行方法を事業リーダー自らが描き、指揮するスタイルです。事業リーダーの職責どおりに権限を集中し、そのスタッフは、実行のマネジメントに集中させる仕組みが良いでしょう。

 

2.リーダーがマネジメントスタイルの場合

ビジョンや戦略は、戦略部門が策定し、事業リーダーはその戦略や実行に承認を与えるスタイルです。権限は委譲する仕組みを導入し、事業戦略はミッション単位に分け、複数のリーダーを配置する形にすべきでしょう。

ミッションはプログラム化し、実行リーダーを育てることにより、ミッション遂行の戦略はリーダーが描くことになり、真のリーダーに育ちます。本稿ではマイクロリーダーと称することにします。

 

プログラムマネジメントはどちらの形でも導入すべきですが、それぞれプログラムガバナンスの強度に差をつけることが仕組み上の成功への秘訣と考えます。

プログラムマネジメントの稿でさらに推敲を重ねたいと思います。

 

事業のビジョンとミッションを明確にする

● ビジョン

 

フレームワーク最上位階層のビジョンはなりたい姿を明確にするものです。

定義をグロービスのMBA用語集から引用します。

 

経営理念で規定された経営姿勢や存在意義に基づき、ある時点までに「こうなっていたい」と考える到達点、つまり自社が目指す中期的なイメージを投資家や従業員や社会全体に示したもの。
ビジョンは、経営理念とともに、経営戦略や人・組織のマネジメントと一貫性、整合性が取られていることが重要である。経営戦略においては、全社戦略、事業戦略、機能戦略のあらゆる戦略レベルにおいて、経営理念やビジョンと現実とのギャップを埋めるための具体的な方法論が示されている必要がある。人・組織のマネジメントにおいては、経営理念とともにビジョンが明示されるのに加え、それが組織として尊重し、従業員にもそれらに沿った行動を求めていることを、具体的な施策を通して伝えていく必要がある。

こういった一貫性、整合性が取られていない場合には、投資家や従業員や社会全体からの信頼を失ったり、ビジョンを達成することが困難となったりする恐れがある。

 

事業経営においても、各取組の狙いをビジョンにまとめることは、タフな工程を乗り切る上で大きなバックボーンとなります。

 

● ミッション

 

ビジョンから具体化された行動目標への落とし込みです。

手法としてP2Mのミッションプロファイリングを紹介します。

P2Mは統合的なプログラム・プロジェクトマネジメントの標準体系です。設計思想がイノベーションの創出や事業変革など価値創造を主眼にしている背景か、ミッションプロファイリング周辺も他標準に比べて実践的な内容です。

 

新版 P2Mプロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイドブック

 

● ビジョン/ミッションと戦略目標の不整合

時間の経過とともにモデル各項目の取組の間でひずみやずれが生じます。成功を収めた事業が収益の柱になった場合、その事業のライフサイクルを見渡し、基本戦略立案と投資ポートフォリオを適時チェックすることが必要です。

 

● 事例

S社の事例について、以下のブログを引用します。分析やその着眼点が大変参考になります。

中小企業診断士の経営・会計・ITブログ

 

この記事の分析に加え、創業時のビジョンが、現在の規模、7兆円の売上、カンパニー制にうまく整合していないことも遠因になっていると考えます。

 

● 経営現場での構図

 

ビジョン・ミッションの設定は事業計画、戦略構築、プロジェクトポートフォリオ構築への出発点です。

現場では、最下層で起きている販売課題の解決策や、実施中のプロジェクト課題が取り上げられることが多く、フォーカスが当たる機会がないと思いますが、重要な経営の起点と認識します。

経営リーダシップ軸と経営マネジメント軸での重要論点との認識が、実務適用へ進展すると思います。

下記の基本構図です。

 

- 経営リーダーシップ軸

中期・長期での変革が重視される

- 経営マネジメント軸

収穫へ短期計画の実現課題解決が重視される

 

この整合において、夢でなく実現性のある目標であることや、下位層への一方通行ではなく、リーダーシップの意図とマネジメントの現実課題の整合性確保へ、修整や、変化へ対応した双方向の摺り合わせ工程が必要なことでしょう。

 

- 論点整合の結果がポートフォリオ

摺り合わせ後の行動計画の展開がポートフォリオになり、各軸での重点項目への資源配分が、その論点展開の最終成果となります。

 

● 実現性へ時間軸と論点の整合を

 

実現性とは何か、実際の経営現場に摺り合わせてみましょう。

 

まず時間軸。

実務の現場では、周期的な計画サイクルがあります。この各策定もしくは更新時期にこの工程を実施し、計画を改良していくことになります。

つまり計画サイクルの時間軸で達成可能な内容であること、が必要です。

 

そして意図の摺り合わせ。

目標とする変革と顕在化している経営課題改善の論点は、3C(顧客・競合・自社)、がわかり易いですね。

では、各視点での改善の目的は何か、これを整合させることが、キャズムの解決になりそうです。

目的はほぼ普遍的に下記となるでしょう;

 

差別化された顧客価値の特定

顧客獲得へ競合排除

価値の創造と提供への取り組み・および既存アセットとの整合

 

● 効果への整合

 

ここで市場のライフサイクルステージによるPFMの考慮が現実との整合に重要です。

ライフサイクルマネジメントにて詳細を検討します。

 

● 指標とテンプレート化

 

計画フェーズも実行フェーズも組織を動かすツールは文書です。

それも一見して判る単純化されたものが現場で使える真のツールです。

上記の整合論点を指標化し、テンプレートにして、変革を狙うリーダーシップ意図と現場課題改善のマネジメント意図を整合させることが実務的な計画作業であると考えます。

 

事業計画にて詳細を検討します。

 

● 工程

 

全体の工程を、下記とすれば、この工程を回して各内容を成熟化させる必要がありそうです。

 

ビジョン仮定>ミッション仮定からミッションプロファイル>アクションプランから戦略構築>ビジョンの検証・仮定の修整

 

つまり、事業計画サイクルに検証する、を運用実務に組み込むことが解決策になり、成否はその検証フレームワークの出来・不出来に左右されると考えます。

時間軸においては、中期のサイクルでの検証が必要でしょう。

● 事例

 

NTTドコモのビジョンを題材に検証してみましょう。

ドコモの中期戦略

 

長期ビジョンが2020年へのHEART・スマートイノベーションです。

そこへ向かう中期戦略のビジョンが’スマートライフの実現’です。

このビジョンをミッションに展開し、ミッションを行動計画に分解すると戦略とプログラム・プロジェクトポートフォリオが出来上がります。

● スターバックス ハワード・シュルツの哲学。良いこと言うなあ・・・

 

4月12日OAのカンブリア宮殿より

 

成功はチームのもの、日々皆が掴むもの。ビジネスはチームスポーツ、チームで勝たねば意味が無い <ビジョンの広さ、純粋さ>

ビジネスはこどもを育てるのと同じ、まず刷り込み、個性、自尊心、その後与えたいものは愛しかない <根底にある哲学>

成長は麻薬、ミスも覆い隠す。しかし成長は戦略で無く、結果。成長への課題は、確実な投資を行えること、人材、SC、IT、へ成長前に投資する <戦略実行成否はマネジメントシステム次第>

リーダーは外にいてはいけない、中にいて利害関係者の口出しを排除する。良いブレーンを置くこと <リーダーシップスタイルが明確であること>

● スターバックス ’Pour Your Heart Into it’ から、ミッションの形成について

 

ハワード・シュルツさんの自伝で、成功への道筋を仔細が書かれています。彼自身による成功要因分析があり、そのミッションが形成された経緯とも読み取ることができます。

 

A taste of romance

 

An affordable luxury

 

An oasis

 

Casual social interaction

 

これら要因は、その時代背景、Internetの成長、WorkStyleの変化、個人の求めうるもの、の整合があったことを分析的に書いています。

 

そして、この章は以下に括られています。

 

Big oportunities lie in the creation of something new. But that innovation has to be relevant and inspiring, or it will burst into color and fade away as quickly as fireworks.

 

彼は、この成功がイノベーションと位置づけられる類の変化であったこと、そしてイノベーションは、独りよがりでなく、人々の感動に結びつく解であるはずであること、と結んでいます。 

● 事業構想の流れについて

 

どのような順番で事業を構想していくのか、その流れを学ぶことは、マネジメントを理解しキャズムを埋める上で意義深いことです。構想は4段階で形成されます;

 

1層→ビジネスの核である、S.T.PとValue Proposition。

 

S.T.Pとは、Segmentation、Targeting、Positioning、のことです。

つまり、市場を定義し、その中にターゲット像を描き、競合とどのように差別化するか、を思考し、同時に、提供価値を明確にしていく、というビジネスの基本構想ステップです。

 

2層→ビジネスモデル

9つの要素で構成されるビジネスモデルキャンパスフレームなどを活用し、整理する。

 

3層→事業計画書

ビジネスモデルを事業計画書という形態に落とし込み、

 

4層→実行計画書

何を、いつまでに、どのようにやるのか

という行動計画を描く。

 

とりわけ重要な取組みが1層です。進め方を以下に纏めます。

 

1.事業テーマ

2.誰の悩みやニーズへ応えるか、ターゲットの悩みやニーズをリストアップ

3.SWOT分析

4.提供価値を決め、ポジショニングを行う

5.ミッション、理念、ビジョン、を推敲する

6.情報発信や集客方法などプロモーション手段を考える

 

さらにこの中で、ポジショニングを決めることを事業仮説の真ん中に据えるべきでしょう。

 

1.いくつかのビジネスをピックアップ。対象市場について既存ではどんなビジネスがあるかピックアップ

2.それぞれの事業の特徴を書き出す。特徴からそれぞれのビジネスの違いが分かるような軸を探してマトリックスを作成

3.マトリックスにポジショニングする。作成したマトリックスにピックアップした既存のビジネスをポジショニングします。

4.空いている領域を探す。ポジショニングしたマトリックスを眺め空いている領域を探す。

5.そこでビジネスが成り立つか検討する。ダメなら違う軸を探す

 ・比較されたくない既存のビジネスとの違いは何か?

 ・顧客が買わない理由を覆すUSPはないか?

 ・何と比べたら圧倒的な価値をアピールできるか?

6.USPが有効に作用することを確認して決める。新しく設定した軸でのマトリックスであなたのビジネスのUSPが有効に作用することができたらそのポジショニングでのアピールすることを考える。

 

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いかがでしょうか? 上記のアプローチからなるアウトプットこそが、マネジメントの対象である、戦略・構造・価値、の最終目標となるものです。