M&Aのシナジー創出に最も重要なことはマネジメントの仕組み
● 事業変革への二つの手段~ Make or Buy
事業経営の変革は商品・サービス・提供方法を変化させることであり、その実現手段として通常は開発投資(Make)が行われ、また、そのマネジメント手法としてプロジェクトマネジメントはすでに広く適用されています。
他の有力な手段として買収(Buy)により新たな能力を手に入れることが一般的になってきています。
開発と買収、その規模を投資額で見てみると、国内企業の研究開発投資18兆円に対して、M&A投資は10兆円に拡大してきています(2013年度国内投資額)。
● 事例:パナソニックの事業ポートフォリオ
事業ポートフォリオを消費財から、産業分野や法人向け分野へ転換を図り、売上10兆円を目指すその手段として1兆円規模の研究開発とM&A投資を行うことを発表しました。
[東京 26日 ロイター] - パナソニック<6752.T>の津賀一宏社長は26日、2015~18年度の4年間で「1兆円規模の戦略投資を実行する」と述べた。車載・住宅のほか、BtoB(法人向け)分野のM&A(合併・買収)に充てる。 これにより、同社として初の大台となる売上高10兆円を2018年度に確実に達成する構え。 14年度の売上高予想は7.75兆円。従来から目標にしている18年度の10兆円に向けて、15年度8兆円、16年度8.4兆円、17年度9.1兆円と、各年度の計画を初めて示した。 売り上げ拡大を支える戦略投資1兆円について津賀社長は「M&Aに加え、研究開発、宣伝投資含む」と説明。15年度は2000億円の戦略投資を実施する。 津賀社長は、M&Aについて「数百億円規模が基本」とした上で「戦略投資1兆円の方針がただちに大規模M&Aと考えない方がいい」と述べた。一方で、M&Aの案件として検討する車載事業やBtoB事業の分野では「大規模な対象がある」とも指摘し、1000億円を超える巨額M&Aに含みも残した。
● 買収の真の狙い、シナジー創出、へ欠かせないこととは
このようにMake, Buyを組み合わせて成長を目指すためには、既存事業を含め、各投資テーマとシナジーを最大化することを画策する必要があります。技術・商品・ソリューション・商流・顧客、部品・基盤の最適活用です。これを意図したマネジメントが買収成功の鍵です。
買収プロセスは、戦略的、法的、会計的、労務的、な側面から、その買収プロセスが進められていきますが、真の目的である被買収企業とのシナジー創出に向けては、すべての工程においてこのマネジメントのスキーム設計が非常に重要です。
商品開発の成功へ開発プロセスが重要視されるのと同様に、M&Aのマネジメントにも、そのシナジー創出へ十分な設計がなされる必要があるのです。
● プロジェクト/プログラムマネジメントが活きる
このマネジメントの基盤として、プロジェクトおよびプログラムマネジメントのフレームワークは有効であることを以下の示唆とともに解説しアドバイスいたします。
1.買収の工程はPre-dealとPost-dealから構成され、Pre-dealはPM手法の適用により効率的なマネジメントが可能である。
2.但し、その成果物として買収シナジー抽出のプログラムを作成することが、Pre-dealの完結、ならびにPost-dealにおける買収の効果をマネジメントすることに直結する。
3.Post-dealはプログラム手法の適用により、想定されたシナジーの実現へ効果的なマネジメントが可能である。
4.総括として、事業変革構想の基本戦略において、Make or Buy は考慮されるべきで、どちらの手段においても適用するマネジメント手法により結果・効果を左右すると言って過言でない。そして、Buyの場合、Pre-dealをプロジェクト化し、シナジー創出に向けたプログラム構想をその成果物として、この品質を徹底的に追及すべきなのである。そのプロセスこそ最終目標を組織に埋め込む道筋なのである。
● M&Aマネジメントの本質とは何か
シナジーをキャッシュフローで表現することです。
プロジェクトテーマにおいて、先に投資効果が数字で描かれているように、M&Aにおいて、その効果が数字で表現されることが最重要です。
なぜならば、買う事業のみに、その投資効果を委ねるならば、売却の道筋を描くキャピタルゲイン狙いの投資になってしまい、それは投資法人の領域です。
シナジーを数字で描く、一見当たり前と思えることが実は難しいのです。なぜならば、現業に関わっている組織を広く巻き込み、企画・計画と実行を責任部門からコミットされるマネジメントの仕組みが前提になるからです。
シナジーの所在は、通常広く現業の組織に及び、その実行には強いリーダーシップとマネジメントの仕組みが必要です。
これこそが、プロジェクト/プログラムマネジメントを活用することを推奨する理由です。
経営者にとっても、また、組織全体にとっても、自分事化することができる仕組みです。
投資後、この困難にぶつかり、いつのまにか資金が塩漬けになっている、そんな事態を避けなければなりません。
Make or Buyが浸透している組織には、どちらにも同等に扱われるプロセスがあるはずです。しかし大半の事業組織は、Buy、つまりM&Aは例外的で、プロセスが無く、したがってマネジメントが意識されない投資テーマになってしまう、これが失敗の本質であると考えます。